【書評】「学力」の経済学
子どもの教育に関する本って、書かれていることに統一性を感じない時がありませんか?
例えば、乳幼児の教育に関しては、〈早期教育が良い〉と言うものがあれば、逆に〈年齢に応じて教育した方が良い〉と言うものもあり。どちらが正しいのか、悩んでしまいます。
じゃあ、どうすれば良いのかと考えると、世の中に溢れている、子育ての先輩方や教育関係の専門家の意見を参考にしようとします。
子どもの教育において、何が成功で、何が失敗なのか、を判断するのは各家庭で違いますが、一般的には、<東大に入った><大企業に入社した><医師や弁護士になった>など、学歴や肩書きが成功事例だとされますよね。
この成功事例がある人が、どのように成功したか、その成功のためのノウハウを伝える書籍やニュースに注目が集まります。
成功事例が一人一人違うように、私たちの子ども達も一人一人違います。そう理解していても、親としては、成功事例を参考にすることで、子どもに期待をかけたくなります。
万人に共通する成功事例があると良いなと思いませんか?
キーワード:エビデンス(科学的根拠)から、確かな学力を得る
子どもの学力について、統計学を用いて、多角的に分析・研究されています。
これにより、一般論ではなく、きちんとしたデータに基づき、子ども達がどのような環境で過ごし、どのような教育を受ければ良いかが分かります。
本書の紹介
Amazonのビジネス・経済書ランキングで3週連続1位。
「週刊ダイヤモンド」2015年ベスト経済学書第3位。
発行部数は、30万部を突破しており、ベストセラーに。
また、TBS系列「林先生が驚く 初耳学」で、林修先生が<日本国民全員が一冊持つべき>と紹介されています。
ヒットを受けて、2018年には漫画化。より分かりやすく、簡潔に読むことができます。
著者の紹介
教育経済学者。
慶応義塾大学を卒業後、コロンビア大学で博士号を取得。
日本銀行や世界銀行での実務経験を積み、2013年から慶応義塾大学准教授。
本書のポイント
1.子どもへのご褒美(P41~)
アウトプットではなくインプットに、遠い将来ではなく近い将来にご褒美を与えるのが効果的
2.テレビやゲームと勉強の因果関係(P52~)
一日一時間までならテレビもゲームも問題ない。二時間以上だと、学習時間などへの負の影響が大きくなる
3.教育費を一番かける時(P73~)
人的資本への投資はとにかく子どもが小さいうちに行うべき
4.非認知能力の中で、特に重要なもの(P85~)
人生を成功に導くうえで重要だと考えられている非認知能能力のひとつは「自制心」です。
もうひとつの重要な非認知能力として挙げられるのが、「やり抜く力」です。
5.教員の質(P142~)
能力の高い教員は、子どもの遺伝や家庭の資源不利すらも帳消しにしてしまうほどの影響力を持つ。
本書の目次
※小見出しは、一部を抜粋しています
第1章 他人の「成功体験」はわが子にも活かせるのか
・東大生の親の平均年収は約「1000万円」
・経済学者が示す「エビデンス」とは
・教育で「実験」をする
第2章 子どもを「ご褒美」で釣ってはいけないのか
・教育経済学的に正しい「ご褒美」の設計
・子どもほめて育てるべきなのか
・テレビゲームは子どもに悪影響を及ぼすのか
・教育にはいつ投資すべきか
第3章 「勉強」は本当にそんなに大切なのか?
・「非認知能力」とは
・非認知能力鍛える方法
第4章 「少人数学級」には効果があるのか?
・「 小人数学級」と「子どもの生涯収入」の関係
・学力テストの順位が表すものとは
・日本の教育経済学者が求めているもの
第5章 「いい先生」とはどんな先生なのか?
・「いい先生に」に出会うと人生が変わる
・教員を「ご褒美」で釣ることに効果はあるのか
まとめ
著者が本書で述べている通り、残念ながら、日本では、教員の質を高める方法を考えたり、子ども達の教育実験や、その解析を有効活用した政策の実施が行われていません。
背景には、日本人の<横並び精神><格差社会への懸念><人を実験台にすることへの嫌悪感>があるように思います。
もし、医療の治験のような実験が、教育の世界にも広がることになれば、自分の子どもに合った学力の伸ばし方や、得意分野の見つけ方が、容易に得られるようになるかもしれません。
とても理想的な話に思えませんか?
そして、子どもの学力を伸ばすことは、未来の日本の繁栄に繋がると言っても過言ではありません。
それこそが、子どもを持つ私たち親の望みでもあります。
科学的根拠(エビデンス)を基にした本書の理論は、理路整然としており、とても読みごたえがあります。
普段、ビジネス書を好んで読まれるお父さん方にも、ぜひ読んでいただきたいです。
書籍情報
<本の題名> 「学力」の経済学
<著者名> 中室牧子(Makiko Nakamuro)
<出版社> ディスカヴァー・トゥエンティワン
<出版日> 2015年6月18日